当日は穏やかな秋晴れ。読経が流れる部屋に爽やかな風が入って来た。
寺の住職は代替わりし、若返った。京都の有名な寺院で修業したという。
「良いことがあったら、お母さんのお陰と思ってください」。この言葉が心に残り、これを励行している。
2年前の葬儀の日も抜けるような青空が広がり、母が耕していた畑にはコスモスの花が風に揺れていた。
妻がコスモスの花を手折り、棺のなかにそっと入れた。
母を荼毘に付した時のことが、山崎豊子の小説の一節とともに思い出される。
「棺を竈に入れ扉が閉ざされてから暫くすると、火葬場の煙突から白い煙がたちのぼり、曇天の冬空には かなく消えていった。」(「沈まぬ太陽」)
今年も、墓に続く道沿いは彼岸花の真っ盛り。
心残りは、最後の時そばにいてあげられなかったこと。
亡くなる2週間前、結核を発症したためだが、どんなに寂しかっただろう。
近親者で法要を済ませ、心が少し軽くなった。