終戦の翌年に生まれたので、昭和の時代が年齢の過半を占める。
「昭和」ですぐに脳裏に浮かぶのが、昭和30年代の故郷の情景だ。
当事のモノクロ写真を時折見て、回想を楽しんでいる。
写真の周囲に広がるわが家や農村の風景は、何度見ても飽きない。
生活は貧しかったが、人と動物や昆虫が自然のなかで「共生」し、生きていたからだ。
粗末な紙の障子、小屋から顔を出したヤギや鶏、わら束の山、今も残る柿の木・・・。
記憶はどんどん広がり、幸せな気分になる。
子供も多かった。近くの海や山で遊んだ。年上からいろんな遊びを教わり、自身も年下に伝えた。遊び道具は自分たちで工夫して作った。
魚釣り、トンボやかぶと虫捕り。遠浅の海ではアサリやクルマエビなどがたくさん獲れた。海水から塩を採る塩田もあった。
田植えなどの農作業はどの家も家族総出で、子供も貴重な労働力だった。
田んぼのそばで皆と食べた昼食はとても美味しかった。
一面に菜の花と麦畑が広がり、そのなかの道を白装束のお遍路さんが歩くのどかな風景は、春の風物詩だった。
今は休耕田が増え、わが家の田んぼも例外ではない。あの豊かな海は望むべくもなく、里山は荒れ、塩田跡のは太陽光パネルが並ぶ。
時代の流れとは言え、残念でならない。